第7章 *ふたり
無事に山を下って、私たちは宿屋に入った。
百之助さんの傷をみる。銃で撃たれた傷は出血のわりにそれほど深くなさそうだ。
「百之助さん、ごめんなさい。痛かったでしょう?
気づかないで抱きついたりなんかして。」
百之助さんは無表情だった。
「…お前が刺したという男は、俺が殺しておいた。
足あとを辿っていったら倒れていたからな。」
あの人、死んじゃったんだ…
ますます暗い気持ちになった。
「アリス、お前に言わなきゃいけない事がたくさんある。」
そう言って彼はアイヌの金塊の話、日露戦争の話、お父さんの話などをしてくれた。
話終わる頃にはもう真夜中といっていい時間だった。
「俺はこれからも沢山殺すだろう。もう何も感じてないからな。
それでも俺はお前を手放す気はない。どっちみちお前ももうお尋ね者だ。逃げ道はないぜ?」
恐ろしい人だと思った。平気で人を殺すこの殺意がいつ私に向かないとは限らない。
けれど、彼は私を手放さないと言った。
私はそれを嬉しいと思ってしまった。
あぁ、この狂気に満ちた人からもう離れられない。
私も狂ってしまったのかもしれない。