第7章 黒雪の策略
テオが食堂に現れる頃には、半刻以上が過ぎていた。
「テオドルスさん………? こんな時間にどうされたのですか?」
「セバス、ルージュを貰えるか」
「かしこまりました。ご用意致しますので、お待ち頂けますか?」
「………あぁ」
靴の音が聞こえなくなったところで、掌で目元を覆う。
思考をかすめたのは………、彼女のすすり泣く声で。
「お前を泣かせたくなかったのに、滑稽だな………。」
だけど 初めて触れた彼女の素肌は甘く柔らかで………、自分自身が抑えられなかった。
その結果彼女に嫌われる未来しかなかったとしても彼女に触れたかったのだ。
それでも気掛かりなのは………、彼女の未来だ。
『あの男』が彼女に近づかないか―――そればかりが胸に宿った凝りのように消えなくて。
ため息をついて、中庭へと瞳を巡らせる。
漆黒の月が 彼女の運命を象徴しているように染まっていた………。