第8章 月夜【テオ→主人公】
中庭からだいぶ離れたところで、テオは後ろを振り返った。
棄てた筈の日々を、喪った人々を想い、彼女は毎夜泣くのだろうか。
悲しみに満ちた涙で枕を濡らし、眠れぬ夜を過ごすのだろうか。
そこまで思考に載せて、彼は舌打ちした。
………いや、そんなことは知ったことではない。
どちらにせよ、あの女の境遇は同情すべきじゃない。
それでも。テオの眼裏には、彼女が零した涙が焼きついていた。
関節が白くなるほどに握りしめた手を開くと、爪の跡がついていた。
惹かれていると自覚したその時から、ふとした彼女の仕草や表情ばかりが目を引きつける。
「眠れない夜を過ごすのは、俺も同じ………か」
唇を自嘲に歪める。
月明かりだけが、その横顔を照らしていた。