第6章 Red Grimm【アイザック⇋主人公】
「じゃあ………俺はもう行くから、」
部屋を出ていこうとする彼の袖をつかんだ。
「アイザック、あの林檎って………。」
「あれはレッド・グリムていういわく付きだったんだけど、アンタは気づかなかったの?」
「レッド………グリム?」
「要は白雪姫の林檎。異性からキスされなきゃ目覚めないって。
だから! アンタに………その、」
言葉を濁して頬に朱を散らす。
「ごめん。成り行きとはいえ、アンタに………。」
「謝らないで。私は………嫌じゃなかったよ」
そっと頬を包んで、視線を合わせた。
「普通怒るのに。本当………アンタって変わってるね」
呆れたような口調だけれど、そのおもては優しい笑みで彩られていた。
「寝なよ。………アンタが眠るまで、此処にいてあげるから」
「う、うんっ」
そろりとベッドに横になる。
さらり。髪を梳く感触が心地よくて、微睡みへと旅立った………。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「眠った、ね………。」
さら、と髪を撫でる。
「俺は………、アンタが好きだ」
届く筈のない恋情。額にキスをして、部屋を出ていく。
彼は気づいていなかった。
背の向こう、雫を流す愛しい存在に………。