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秘め事【イケメンヴァンパイア◆SS集・裏】

第5章 君の魔法【フィンセント・本編ネタバレあり】


あまりお客さんのいない水槽の前で、漸く歩みを止めると。

「怒ってる、よね………? ごめんなさい」

彼女が、呟いた。


「どうしてあなたが謝るの」


「だって………。私がさっきの子と話してたとき、なんだか悲しそうだったから」

彼女はそっと笑んだ。その表情は、とても儚げで………。

思わず、抱きしめていた。


「俺こそごめんなさい。

さっきあなたと別の人が話したとき………、なんだか胸が焼けついたみたいで」


「それって………。」


「いまこっち見ないで………、ください」

隠すように背けた横顔。

その目元には、否応なく朱が散っていく。


「ふふ………、妬いてくれたんだね」

「わ、笑わないで」

ますます朱染めて、俺は呟いた。


「前に言ったこと、覚えてる?

『私は、どんなフィンセントでも好きでいる自信がある』って………。」


「忘れるなんて、できる筈ないよ」


「だから………ね? 今も同じだよ。

優しいあなたも、妬くあなたも………、全部私は好きだから」

だから、そんな顔しないで。

彼女はそっと、抱きしめる俺の背に腕を掛けた。


「本当に………あなたには、適わないなぁ」

柔らかく笑んで、彼女を離して手を差し出す。


「行こう。もっと………、あなたと見たいものがあるんだ」

「うんっ」


繋いだ手の温もりが、俺をここにいさせる優しいしがらみ。



気高く芯が強くて、そして誰よりも優しい。

あなたと共にある限り………、ずっと幸福だから。


祈るように浮かべた言葉を伝えるように。

繋いだ手に力を込めると、きゅっと握り返してくれた………。


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