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DC短編

第1章 素直じゃない【安室透】




さんに肩を貸してもらいながらなんとか寝室へとたどり着く。ベッドに横たわると同時に離れていく彼女の手を眺めながら物悲しさを覚えるあたり、風邪をひくと人肌が恋しくなるというのは自分にも当てはまるようで。体は熱くて感覚もないのに、彼女が触れる部分は確かに暖かく感じてしまうのだから、不思議な話だ。

「あの、……私、何か買って来ましょうか?」

こちらを覗き込むのように屈んでいたさんがそのまま立ち上がろうとしたのを見てとっさにその腕を掴む。それは今にも解け落ちそうで、それでも離したくなくて。訳の分からない焦燥感だけが募ってゆく。パチパチと零れそうな程大きなその瞳が数回瞬きして、彼女は自らの手元に視線を落とした。

「あー……安室さん?」
「どこにも行かないで」
「……、え」
「何もいりません。貴女に、傍にいて欲しい」

自分でも嫌気がさすほど掠れた甘ったるい声だった。でも、いつもの飾り立てた脚色ばかりの言葉じゃない、熱に浮かされた分だけ、シンプルなものだ。
ああ、彼女は今どんな顔をしているのだろう。いつものように「気持ち悪い」と言うだろうか。怒るだろうか。それとも呆れてる?どんな顔をしてるにせよ、今、彼女の顔をもっと近くではっきりと見たい。頭痛でぼやける視界がひたすら恨めしかった。



「……いますよ」
「……」
「ここに、います。外に出るの……めんどくさくなっちゃった」
「そう……ですか」

俯き加減だった彼女がその場にかがみ込んで僕の手を握る。穴に落ちるような深い眠りに引っ張られる直前、閉じる瞼の裏には顔を赤らめたさんの顔が確かに、はっきりと映っていた。



fin.
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