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DC短編

第1章 素直じゃない【安室透】





ピンポーン……


インターホンの音で目覚めて、最初に感じたのは喉の渇き。水を飲もうと体を起こすと頭が内側から一定の間隔で殴られているように痛んだ。思わず呻き声をあげるも、次は喉の痛みに気づく。そういえば体も熱っぽいかもしれない…と、ここまでくれば流石に働かない頭でも自分が風邪をひいている事は理解できた。日頃から体調管理には人一倍気を遣っていたつもりだが、やはり体は疲れているらしい。幸い、今日は数ヶ月ぶりの完全なオフだ。とりあえず胃に食べ物でも入れて、市販の薬を飲んで寝れば明日には治るだろう。ため息をつきながら重い体を持ち上げようとベッドに手をつくと、もう一度インターホンがなった。
こんな日に誰だ鬱陶しいと、理不尽な八つ当たりをしながら覗き窓から扉の向こうを伺うと、無愛想な女性が一人。

「安室さん、ちょっと遅くないですか?」
「……ああ、さんですか」

そう言い終えるが早いか、生ゴミでも見るかのように彼女が顔を顰める。「安室さん、声変ですよ気持ち悪っ」なんて遠慮という言葉を知らないその口から罵倒の声が扉越しにも確実に飛んでくる。いつもなら適当にあしらって挙句は言い負かすことも出来るのだが、ぼんやりとしたこの状態ではそれも難しい。
そういえば、何故彼女がこのタイミングでうちに訪ねて来たのかと不意に考えてみると、今日は2人で出かけるという約束をしていたことを思い出した。しかも誘ったのは僕の方だ。きっと約束の時間になっても待ち合わせ場所に来ない事に痺れを切らせて来たに違いない。

「コホ……すいません。実は風邪をひいてしまったようで、申し訳ないのですが出かける約束はまた後日ということに……」
「私、そんなに暇じゃないんですけど」
「……あぁ、そうですね。分かりました。では今度埋め合わせにポアロで何か奢らせてください。本当にすいません。じゃあ」
「え?あ!ちょ、ま……!!!」

何とか咳きこまずに全てを言い終え、息をつきながら部屋に戻る。さんの焦った声が聞こえたが、それに気を回せるほどの体力は残っていなかった。食事も薬も、とりあえずは後回しだ。水だけ飲んで寝るとしよう。


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