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きみに届けるセレナーデ 《気象系BL》

第11章 家路


情けない事に、その日の営業はこなすだけで精一杯だった…

この場所には翔との思い出が多すぎる。

どこを見ても翔の影が浮かんできて、翔の姿を頭から追い払うのに必死だった。

「お疲れ…」

「お疲れ。ねぇ智…もうすぐ潤が来るから車で送ろうか?」

店が終わった途端気が抜けて、フラフラだった俺を心配そうにニノが見つめる。

「いや、大丈夫…大した距離じゃねぇし…」

何よりも、早くひとりになりたい…

「そう…気を付けて帰ってよ?
その辺で野たれ死ぬとか止めてね?
まぁ、その前に潤に拾われるだろうけど」

「ははっ…潤さんに拾われたくはねぇなぁ…
下手すりゃ処女喪失、ってか…」

「それが嫌なら、ちゃんと家に辿り着くことだね」

「おう…また明日な…」

「うん、また明日…」

ニノと別れ、トボトボと歩き出した。
この道も翔とふたりで何度も歩いたよなぁ…
いつもと違うのは、景色が滲んで見えるってこと。

翔のことを泣き虫だといい続けていたが
今日に限っては、翔のことを言える立場じゃないらしい…

翔と過ごした日々に、思いを馳せながらのんびりと歩いてたのに
気が付けば家に辿り着いていた。

玄関の鍵を開け、ドアノブに手が掛かったまま動きが止まる。

翔との思い出が一番多い場所…
こんなに家に入るのが躊躇われるなんてな。

『ふぅ~っ』と息を吐き、ゆっくりとドアを引いた。
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