第10章 別れの曲
「あ、そうだ翔」
営業が終わり店を出るときに、ニノが翔に声をかけた。
「はい?」
「明日、ピアノの調律入るから練習出来ないよ」
「そうなんですね。わかりました」
「でも、調律が終ったあと試し弾きして貰いたいから、ちょっとだけ早めに来てくれる?」
「いいですよ。俺、調律してるとこ見るの好きなんで問題ないです」
「じゃあ、よろしくね」
「はい」
「じゃあ、お疲れ」
店の前で立ち止まるニノ。
「潤さん、まだ来ないのか?」
「ううん、もう来るから大丈夫」
「そっか、じゃあまた明日な」
「うん、おやすみ」
ニノと潤さんの関係もこの一年で変わった。
ニノが潤さんのマンションに同居するようになり
潤さんが人を拾ってこなくなった。
正確には拾って来ないんじゃなくて
拾ってきた人たちを支援する施設を設立した。
そこには、プロの心理カウンセラーがいて
社会生活に戻れるように、導いてくれる施設となってる。
だから潤さんが、ニノ以外の人間を抱くことはなくなったってわけ…
ニノに『よかったな』って言ったら
「翔のお陰かな?
まぁいつまで続くか、わからないけどね」
なんて言ってたけど
翔が潤さんとキスしたことがないって教えた時は『ふ~ん、そうなんだぁ』って言ったあと
ひとりで嬉しそうに微笑んでいたのを、俺は見逃してないからな。
ほんと素直じゃねぇんだから。