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ハリー・ポッターと恋に落ちた道化師

第10章 【許されざる呪文】


 憧れのルーピン先生と2人きり。本当は嬉しいはずなのだが、この時ばかりは不安の方が勝っていた。何しろ先生は口元だけはいつも通り微笑んでいたが、その上にある瞳が、真剣を通り越して嫌悪さえ感じられる様な光をはらんでいたからだ。クリスは恐る恐る先生に訊ねた。

「あのっ、ルーピン先生……私、なにか悪い事でもしましたか?」
「ん?ああ、いや、そんな事は無いよ」

 そう言うと、ルーピン先生は自分の椅子に座り、近くにあった椅子にクリスを座らせた。やはり、後片付けを手伝って欲しいと言っていたのは口実だったのだとクリスは直感した。不安が体中を巡り、組んだ手からは嫌な汗がじっとりと湿り出していた。
 いったいさっきの授業で何がいけなかったのだろう。そもそも、ボガートが変身したのはいったい何だったんだろう。それすら分からないのに、この状況を打破するのは不可能と思われた。仕方なく、クリスは下を向いたまま黙っていた。すると、先生がクリスの頭を優しくなでた。

「大丈夫、怖がらなくていい。その代り、私の質問には嘘をつかずに答えてほしい」
「……はい」
「君はさっきの授業で、ボガートが変身した時、何に変身したと思った?」
「私にも、分かりません。でも……多分、自分自身に変身したんだと思います」
「つまり君は、自分自身が怖いのかい?」
「いえ……そんな事はありませんけど――」

 そこでクリスは言葉を切った。自分自身は怖くはない。しかし、『自分の中にあるもう1人の自分』が怖いと思った事はある。
 それは1年生の時、『組み分け帽子』にもう一つの力が眠っていると言われた時。それともう1つ、2年生の時、自分がスリザリンの後継者で眠りながら生徒達を襲っているのではないかと思った時だ。自分の中に眠る力が、いつか誰かを傷つけてしまうのではないかと思うと、怖くて怖くて堪らなかった。
 しかし、それをルーピン先生に打ち明けて良いものかどうかためらっていた。スリザリンの家系に生まれ、純血主義の人達に囲まれ育ち、なおかつ左腕には『例のあの人』が自ら施した『闇の印』までもっているだなんて……。先生に知られたら、もうあの笑顔も向けてくれなくなってしまう。そう思うと心臓がギュッと締め付けられるような痛みと苦しみを感じた。
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