第7章 Catalyst
放課後。
職員室に使用許可を貰いに行き、その足でまた例の空き教室へ向かった。教室は昨日と変わらず殺風景だ。
窓を開けて外の様子を眺めながらぽつりと呟く。
「お父さん何してるのかなぁ」
「そういや、離婚してるんだったか」
「うん。私が五歳の時にね。お母さん、お父さんの話するのすっごく嫌がるから、聞けないんだ」
相当こじれた別れ方でもしたのかと思って今は一切触れないようにしてる。私だって親のどろどろした話は聞きたくないし母も同じだろうと思う。
「綿世ん家も大変だな」
「大したことないよ。あのね、お父さんサポート会社のデザイナーだって昔に聞いたの。もし今も続けてるとしたらどこかでお世話になるかもなって!」
「案外もう世話になってたりしてな」
そうかもしれない。彼の言葉にくすりと笑った。轟くんのお父さんの話や、飯田くんのお兄さんのことを考えていたら、ふと父の事を思い出したんだ。
柔らかくて温かくて、私は父が大好きだった。もう顔も憶えていないけれど。
元気にしているだろうか。いつかどこかで会えるだろうか。ヒーローになって有名になったら会いに来てくれるだろうか。
綿菓子をちぎったような雲が遠くの空に流れていく。なんだか胸にぽっかり穴が空いた気分になって誤魔化すように微笑んだ。
「っよし!では、今日もお願いします」
にっ、と笑って振り返る。ブレザーを脱ぐと轟くんはゆっくり私に近づいた。
首を傾げて見上げたら、頭に心地よい重さがやってきた。
「わっ……轟くん?」
頭を撫でられている。そう理解するや否や、手は離れていった。
「悪ぃ。……つい」
「ううん!びっくりしたけど、大丈夫。ほら」
その場で一周回ってみせて、綿が出ていないことを示した。まだ頭に残る優しい感覚。それは心に空いた穴を埋めるようでなんだか元気が出た。
「そうだ。私も触ってみていい?」
轟くんは短く返事をして頷いた。
ヴィランに触られたのがトラウマになっている。つまり、今まで暴走するのが怖くて避けてきたが、自分から触るのは平気なのでは、と思ったのだ。
そうは言っても初めての試み。やっぱり緊張する。
轟くんはブレザーを脱いで鞄の上に置くと、ネクタイを緩め、袖を捲った。その男の子らしい仕種にどきりとした。
邪念を払って轟くんの頭に手を伸ばすと、彼は少し屈んで私に頭を差し出した。
