第13章 日陰者
そっと麗日とは反対側に移動し、しかし声は聞こえる程度の距離を保つ。
「デクくん?」
案の定、麗日は緑谷に気付き声をかけている。
「お友達…じゃ、ない………よね?
手、離して…………?」
「なっ何でもないよ!大丈夫!大丈夫だから!
来ちゃ駄目…」
焦り気味の緑谷。
しかし男は緑谷からぱっと手を離し、ごめんごめん、と朗らかに謝った。
ゲホ、ゲホと咳き込みながら、緑谷は立ち去ろうとする男を引き止めた。
「待て…死柄木、弔………!!」
麗日が、心配そうに緑谷に駆け寄る。
終綴は半歩移動し、木の影になるように隠れた。
「オール・フォー・ワンは、何が目的なんだ」
──オール・フォー・ワン…!?
出てきた名前に、終綴はごくりと唾を飲んだ。
──なぜ。
──死柄木弔とオール・フォー・ワンは繋がっている?
──確かに、辻褄は合う。
オールマイトを殺そうとしていること。
平和の象徴に対する、途方もない憎悪。
脳無などという、恐ろしいバケモノの製造。
表舞台には出てこない巨悪。
確かに、死柄木には何かバックがあるだろうと踏んでいたのは自分だったけれど。
まさかそれが、────オール・フォー・ワンだったなんて。
すぐさま報告しなくては。
そう思い、いつも通りの番号を呼び出すも応答はない。
潔く諦め、別の番号を呼び出した。
『──────』
「1つ、報告」
『──?』
「そ、あいつに伝えといてよ。
………死柄木弔は、"あの"オール・フォー・ワンと繋がってる」
『──────』
「死柄木が認めたんだよ。詳しくはまた後で電話する」
『────────』
「私を誰だと思ってるの。
……じゃ、もう切るからね」
電話を切り、麗日たちの動向を探る。
どうやら麗日は警察に通報したようだ。
騒ぎが大きくなってきている。
───私はこの場にいない方がいい。
USJ事件の際はやむを得ない状況だったけれど。
警察にはあまり近付きたくないのだ。
上鳴たちにも「用事があるから帰る」と言ってあるし、寧ろここに残っていた方が問題だろう。
「…帰るか」
終綴は人混みに紛れ、消えた。
誰からも姿を見られなかったという点を除けばその様はまるで、───────どこかの日陰者のようで。