第11章 忍び寄った影は消える
終綴が自分の後をつける者の存在に気付いたのは、家を出て数時間、辺りが暗くなり、周囲から人の気配が薄らいだ頃だった。
久々に実家に帰ろうとしていたのだが、一人暮らしをする家からはかなり離れている。
個性を使って行けばよかったと思うも、しかし。
──撒いてもいいけど…1人、ではなさそうだし。
次第に増えてきている。
滲み出る、悪意。
先程から同じ場所をぐるぐると回っているが、例の足音もずっと後をつけてきている。
自分を追っているのは確実だろう。
誰だろうか。
USJで邂逅した、敵連合ではないだろう。
自分は恨まれているだろうが、こうも分かりやすく尾行はしない筈。
ワープの個性で、誘拐するのが1番手っ取り早いからだ。
──少しずつ、距離が縮まってる。
明らかに、平穏な空気ではない。
さり気なく行き止まりの路地へと誘い込む。
足音も止まる。
ゆっくり振り返る。
目出し帽を被った者、計10名。
皆ナイフや鉄パイプなど、明らかに凶器と判るものを持っている。
その中から1人、前に出た。
「お前、"フクロウ"だな?」
終綴はポカンと口を開け、はは、と乾いた笑みを漏らした。
「梟?初対面の人間に向かって鳥呼ばわりは失礼じゃありません?」
しかし、その男は華麗にスルーした。
「雄英の体育祭見て驚いたぜ。
まさか、長年の恨みを晴らせる時が来るとはな…
なぜお前が雄英に入ってるのかは知らんが、俺たちには関係ねぇ」
ジリ、と距離を詰める。
仕方ないと終綴は深呼吸し、体制を整えた。
強く睨みつけ、凶器にしかならない右脚を強く踏みしめる。
それに気づいた男たちは、予想外の終綴の行動に、おかしいなと僅かな焦りを感じた。
「お、お前……ヒーロー志望なのに、一般人相手にその脚を向けるのか?」
凶器を他人に向けている時点で、彼らが一般人かどうかは怪しいのだが。
しかしそれには言及せず、そして男こそおかしいと言うように、終綴は首を傾げた。
「雄英生徒の私ではなく、"フクロウ"に…話しかけた、んですよね?」
ゾクリ
女の纏う空気が変わった。
底冷えするような温度の瞳。
何を考えているのか判らない、恐ろしい目。
どろっとした、狂気の─────
その瞳の色に、男たちは思わず、数歩後ずさる。