第11章 忍び寄った影は消える
終綴は帰宅しすぐに私服に着替えた。
黒いレースのカットソーに、デニムのスキニーを合わせたシンプルなコーデだ。
なぜか依田には、黒い私服が多かった。
クラスメイトと出かける時には華やかな色合いのものを着るようにと心掛けているのだが、終綴はそのような服などあまり持っていない。
───やっぱ、「ヒーローの卵」の制服って、なんか苦しいんだよね。
尤も、着替えたものも「普段着」ではなく「私服」なので楽とは言えないのだが、普段着を見られたら何かと都合が悪い。
それは仕方ないのだと、終綴は割り切っていた。
暫くソファで寛ぎ、ふと携帯のメールボックスを見る。
───…会いたい、なあ。
会ったばかりのはずだけれど。
本当なら毎日でも会いたいし、片時でも離れたくない。
会えないのは仕方ない、一人暮らしも仕方ない。
判ってはいるのだけれど。
それを良しとするのとはまた、別の問題である。
───でも行き過ぎたら多分怒られるよね。
さてどうしたものか、と悩んでいると、
携帯のランプが点滅し、着信を知らせた。
「はい」
『───────』
「え、昨日は明らかにそっちが……」
『────────────』
「わ、わかったよ、ごめんってば!」
『────』
「ん、じゃあ今から歩いて向かうよ」
『───────』
「えー、運悪くあいつに見つかったらどうするのよ」
『……────』
「じゃあまた後でね」
愛しい恋人からの着信だった。
帰ってこい、とのこと。
緩む口元を隠そうともせず、終綴はひっそり、家から出た。
ふわり