第9章 光と影、そして闇
***
「惜しかったねぇ終綴ちゃん!!」
「かっこよかったわ」
「今回もお前が勝つかなーって思ってたけど」
表彰台に登るクラスメイトたちを見ながら、終綴は労いの言葉を掛けられていた。
「いや~、やっぱ轟は強いねぇ。勝てなかったや」
悔しそうに笑う終綴は、表情とは裏腹に内心ではガッツポーズをしていた。
───及第点、っていうか完璧。合格でしょ。
表彰台のクラスメイトたちを見る。
どうやら飯田は家の都合により急遽早退したようだったが、それ以外の3人はちゃんと揃っていた。
───1位である爆豪は、暴れているのだが。
それと対照的に、轟は憑き物が落ちたような表情をしている。
その目の色は晴れやかで、スッキリしているようにさえ見えた。
***
「…終綴」
相澤が学校に戻ると、少し先に妹が歩いているのを見た。
「あ、お兄ちゃん。怪我の具合はどう?」
呟き程度の声量だったにも関わらず、それをしっかりと拾って笑顔で振り向く終綴。
───………。
終綴の調子は普段と変わらない。
怪我はしていないし、疲れた様子も全く見受けられない。
リカバリーはしていないはずだし、休む暇などなかったはずだから、全く疲れていないというのには些か疑問が残るけれど。
「大丈夫だ、処置が大袈裟なだけで、もうすぐ包帯も取れる。
……それより終綴、残念な結果だったが、今日は嬉しそうだな。
知り合いでも見に来てたのか?」
───あの増強型は、誰から……
「へ、知り合い?来てないけど」
言いつつ、終綴の目が細くなったのを相澤は見逃さなかった。
───隠し事、か…?
「あ、わかったお兄ちゃん、私に彼氏いるか気になるんでしょー!可愛い妹だからっ!!!!
へっへ、大丈夫、………お兄ちゃんには教えないからっ!!」
しかし途端にデレデレし始めた終綴の表情を見て、その考えを即座に打ち消した。
───こいつはただの馬鹿だ。
───観客から借りたものが、たまたま使えたってだけだろう。
「聞いた俺が馬鹿だった…」
溜息を吐きながら、相澤は終綴の横を通り過ぎ、職員室へと向かった。
彼女ほどの強さをもつ者がトップ8に甘んじている、その違和感に気付かないふりをして。