第3章 後編 王の願い 少女の想い
「…分かった」
そしてどれくらい沈黙が続いたのだろうか、漸くシャンクスから肯定の言葉が出てきた。
とくに難しいことではないのに、何をそんなに考え込む必要があったのか。
最早突っ込む気力もなくなったベンなので黙っていたが、問題はここからだ。
こちらに向かってくるヤソップ。
ユーリには悪いが、一応安全の確認も含めて仲間に後を付けさせた。
その役目を負ったのがヤソップだった。
彼なら、離れた所からでもユーリを監視できるだろうから。
そしてユーリの居場所を知っているであろう彼の表情が、あまりよろしくない。
出来れば何事も聞かずシャンクスに黙ったままで出航したいが、流石にそういうわけにはいかないだろう。
ユーリの身に何かあったのかもしれないし。
寧ろその方が、まだ単純で良かった。彼女の実力があれば、一人で勝手に解決して戻ってくるだろうから。
ベンは嫌な予感がしたので、ヤソップの持っている情報を、シャンクスよりも先に知りたいと思ったが、それは無理だった。
「ユーリの奴、あーえーっと何て名前だっけ?ピンク色の髪をした…」
ベンとシャンクスに報告するヤソップは、自ら地雷を踏んでいるとは気づいていないだろう。
ヤソップからしてみれば、今回の依頼はシャンクスからのものだと思っていたのだから。
そしてベンは、ピンク色の髪と聞いた瞬間、折角収まった彼の殺気が再び露わになった事実に深いため息を吐いた。
ヤソップの情報によると、理由は分からないがユーリはシュライヤと一緒に海に出ていったらしい。
出来れば聞きたくなかったその情報。
ユーリ、何故おまえはわざわざこの男を煽るようなことをするんだ?
ベンは痛む頭に手を当てると、シャンクスへと視線を向ける。
「そうか。気が利くじゃねぇか、ベン」
シャンクスは笑っていた。
それはそれは、冷たい笑みを浮かべて。
その笑みはベンではなくユーリへと向けられたものだが、ベンは微かに寒気を感じた。
何だかんだでユーリの行方を掴んだことは称賛に値するだろうが、果たしてこれで良かったのか。
もう勝手にしてくれとばかりにベンは肩を竦めると、船内へと入っていった。
どうせすぐに出航になるだろうから。