第15章 DEAD APPLE
「過去より来りて未来を過ぎ久遠の郷愁を追ひくもの
いかなれば滄爾として時計の如くに憂い歩むぞ」
葉琉の言葉に反応するように漂泊者は発動した。世界が凍り、敦と鏡花の動きが止まる。繋いだ手を通して今までとは比べ物にならない程の力が葉琉の中に流れ込んでくる。
その力は次第に緩やかになり、葉琉の意識が薄れ出す。
「お疲れ様」
後ろから支える様に、太宰が葉琉に触れる。漂泊者が解けると同時に葉琉の意識は途切れた。最後に、握っていた手から葉月の体温が温かくなっていくのを感じた。
敦と鏡花には一瞬の出来事で、先程まで横にいた太宰が意識を失っている葉琉を抱えていた。
「葉琉さん!」
駆け寄る敦と鏡花に太宰は「大丈夫だよ」と応え、葉月に触れ「葉月ちゃんも異能の効果は消えた」と告げる。
安心したように微笑む太宰を、敦はじっとみつめる。太宰は敦の視線に気付き「敦君」と口を開いた。
「今回、私はねーー」
「太宰さんはこの街を守ろうとしたんですよね?」
太宰が何かを云うより早く、敦は顔を和らげる。驚いた様に太宰が「私がそんなことをするいい人間に見える?」と複雑に顔を歪めた。
「見えますけど……」
素直にこくりと頷く敦に、太宰は僅かに瞠目した。そして、「まぁいい」と苦笑する。
「貴方はこれで本当に良かったの?」
敦に尋ねてきたのは鏡花だ。心配そうな鏡花の問いに、敦はそっと目を伏せる。
「……これでいいんだ。少なくとも今は皆と街を守れたことを誇りに思うし、そうやって鏡花ちゃんや皆の隣で生きていく方が……幾分か素敵だと思うから」
心配そうだった鏡花の顔が、安心したように綻んでいく。
葉琉を抱え乍敦達の様子を伺っていた太宰がそっと微笑んだ。