第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
「きゃあっ、お客様!」
莉菜さんが倒れた俺の側に駆け寄って来た。
「しっかりして下さい!」
「うう」
「お客様!?」
「っ…もう、駄目かもしれない」
ーーなぁんて。
目を閉じてドラマの主役になりきる俺。
昔から一度やってみたかったんだ。
「はっ 馬鹿め、ヘタに逆らうからだ!」
「酷い! この方は無関係なんですよ!?」
「知ったこっちゃねぇ、そいつが勝手に首突っ込んで来たんだろうが! 巻き込みたくなけりゃ大人しくアニキの言うことを聞け!」
「それだけは絶対の絶対の絶っっっ対にイヤ!!」
まずい、興奮した莉菜さんが子分Aと口論になってる。
俳優気取りはこの位にして、場を収めないと。
「よっこいしょと。まあまあ、お二人とも落ち着い…… あれ」
パンパンと膝を払いながら起き上がったものの、ある異変に気が付く。
(…ーー見えない)
どうやらパンチの衝撃で眼鏡を失くしてしまったようだ。
「お客様、眼鏡は…!?」
莉菜さんにも眼鏡が無いことを指摘される。
「困ったな、殴られた時に飛んで行ったらしい。どこかに落ちてるはずだけど何も見えなくて… 申し訳ないんだけど代わりに探してもらえる?」
「全然見えないんですね? 分かりました、私 探します! ちなみにお客様が話しかけてるのは今殴ってきた悪い人なので気をつけて下さい!」
「…! そうだったのか、了解」
莉菜さんは俺に忠告してから眼鏡を探し始めた。
さてと、眼鏡が見つかるまでの間、時間稼ぎを……
「ヘッヘッ、良いこと聞いたぜぇ〜 眼鏡がねぇと何も見えねぇだって?」
と思ったけど、そうは問屋が卸さない… か。
目の前にいた子分Aに胸ぐらをグイと掴まれる。
「もうさっきみてぇにチョコマカ逃げられねぇ。絶体絶命ってわけだ」
「………」
「ハッ、黙ってねぇで何とか言え! 遺言がありゃ聞いてやってもいい」
子分Aは隠し持ってた小刀の刃を俺の首にピタリと当てる。
首を斬られて死ぬのは流石に御免だ、
正当防衛とは言え気は進まないけど… 致し方ない。