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暗闇の蕾【文豪ストレイドッグス】

第12章 DEAD APPLE


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暖かい光を感じ、ゆっくりと瞼を開けた。中也の躰は汚濁の影響で座っているのもやっとのようだ。視線だけを動かし様子を伺う。先刻まで居たはずの男は既に姿を晦ましていた。

昇る陽の光に目を細め、霧が消滅していることを確認する。どうやら全てが終わっているようだった。だが、中也の中ではまだ解決していないことがある。

「葉月……」

まだ恋人の安否が確認できていない。だが、立ち上がろうにも躰が言うことを聞かないのだ。
不意に落ちている端末が震え出した。手に取り、耳に中る。

「……」

『やぁ、中也。疲労困憊お疲れ様〜♪』

「うっせぇな。…何の用だ」

電話の相手は姿を消したばかり男、太宰治。

『葉月ちゃんのことが気がかりかと思ってね。無事、でもないけど葉琉が助け出したよ。いま、外傷は治療中。暫く安静が必要だろう』

「は!?治療中って、何があった!」

『君と同じだよ。異能力の影響だ。詳しくは目を覚ました時に直接聴くといい。あ、1度探偵社に連れていくからお迎え寄越してね』

伝えることだけで伝えると、太宰は一方的に通話を切った。喉元まで出かけていた言葉を呑み込み、無機質な電子音が聞こえる端末を睨み付ける。はぁ、とため息を一つ零すと端末を操作しまた耳に中た。

「俺だ。……あぁ、問題ない。解決した。…済まねぇが迎えを寄越してくれ。俺じゃない。葉月だ。場所は探偵社で………あぁ。……頼んだぞ、広津」

通話をきり一呼吸置いた時、中也は別の人の気配に視線を向けた。
黒を纏う短躯が何かを探すように瓦礫から姿を現した。

「こんなところで何してやがる?」

中也の声に振り向く影は芥川龍之介。トレードマークの黒の外套が所々破けており、先程までの戦闘の痕が伺える。
芥川の目的が何か、中也にはお見通しだった。

「太宰のポンツクなら無事だぜ」

中也の言葉に、芥川はにわかに姿勢を正し、一揖した。
すぐさま去ろうとする芥川に、中也は「おい」と再度声をかける。

「肩貸せや」

にやりと笑って告げた。
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