第9章 双つの黒と蕾の運命
葉月は中也の反応に驚いていた。伏せていた目を上げ、パチクリと中也を見つめた。
「葉月が如何しても俺から離れてェなら補佐だって外してやる。だがな、それが俺の為なんて思ってンならブッ飛ばすからな」
(あぁ、本当敵わないなぁ…)
葉月の考えなんてお見通しの様だ。こう云う時だけは本当に勘のいい男である。葉月はぷっと吹き出した。
「そうだよね、中也ってそうだよねぇ」
「あァ!?莫迦にしてンのか?」
「違うよ、感謝してるの。また中也に助けられたなぁって。後悔しない様に、そうだよね。
……私、中也と一緒にいたい。此れからも同じ部屋で書類整理して、任務に行って、作戦立てたいな」
中也は「それでいいじゃねぇか」と笑った。葉月もつられて笑う。
「なぁ、葉月。この戦争が終わったら休暇取って二人で何処か行かねぇか?三日くらいなら取れンだろ。俺も、手前に話さなきゃいけどねぇことがあンだよ」
「えー中也が隠し事?」
拗ねたフリをする葉月に中也はわしゃわしゃと頭を撫でて「そんな大層なモンじゃねぇよ」と言った。
「まぁ、何処かゆっくりしたいよね。西方にいる時も帰ってきてからも休み無しだしね。そうだ、海!海に行きたい!」
「仕様がねぇな。休暇取れるように仕事調整しろよ」
「中也もね」
不意に葉月は忙しなく震えている端末を懐から取り出した。
「あ、広津さんから沢山連絡来てる」
「俺もだ」
中也も端末を確認し、掛け直す。
「俺だ、任務は完了した」
『中也殿。連絡が無く、如何したものかと』
「汚濁の影響で意識無くてな」
『葉月君も無事ですか?』
「あぁ。取り敢えず車を回してくれ」
『畏まりました』
中也は端末を仕舞い、ゆっくりと立ち上がった。
「帰るぞ。近くまで車回してもらった」
そう云うとQがいる小屋に向かいまたおぶる。二人は迎えが来る処までゆっくりと歩いて行った。