第7章 友の幽鬱
ーーポートマフィア最上階
樋口は首領に呼ばれ、其処に居た。
「下顎骨剥離骨折、前頭骨・胸椎裂離、頸部靭帯参照…そして昏睡。派手にこわされたものだね。任務の失敗の代償、という訳だ」
傍に有る診断結果を見ながら首領が言った。樋口は疲れ切った表情で「申し訳ありません」と告げた。
「此の儘意識が戻らぬかも知れないね」
「そんな!」
動揺を隠せない樋口を首領は見据える。
「気を落とすことはない。君達は佳く頑張ったよ。確かに、探偵社の襲撃に失敗し、人虎の捕獲を謬り、輸送船を積荷ごと沈めたけど…頑張ったから良いじゃあないか。頑張りが大事。結果は二の次だ…そうだろう?」
皮肉めいた言葉に樋口は口を閉ざす。首領は「そうそう」と態とらしく思い出した様に話を変えた。
「作戦中、芥川君が潰した密輸屋…【カルマ・トランジット】の残党が手勢を集めているそうだ。芥川君への復讐だろう」
樋口は目を見開いた。
「良いかね、樋口君。マフィアの本質は暴力を貨幣とした経済行為体だ。何を沈めても、誰を殺しても良い。だが、暴力を返されることは支出であり負債だよ」
「そんな負債などと……芥川先輩は是迄の任務で多大な成果を…」
「確かに芥川君は優秀だ。彼の暴力性は組織でも抜きん出ている。…では君は?」
「……」
「樋口君、君は自分がこの仕事に向いていると思ったことは有るかね?」
樋口は何も答えられなかった。