第3章 脱走
男の家は広かった。
性奴隷を買えるくらいだから、金持ちであるのはわかりきっているが、逆に家が広ければ男に出くわさずに外へ出られるかもしれない。
灯翠は足音をたてないように、廊下を移動し始めた。
玄関ではなく、窓からなら、出られるかもしれない。
しばらく歩いていると、廊下を曲がった突き当りに大きめの窓が見えた。
あの大きさなら、出られる!
灯翠は窓へゆっくりと向かった。そして、なるべく音をたてないように、窓の鍵を開き、窓を―
「なにしてるの?」
灯翠の身体に、寒気が走った。
「まさか、逃げようなんて、思ってないよね?」
灯翠はゆっくりと振り返る。
男が、にこやかに笑っていた。しかしその目は、その眼光は、怪しく光っている。
「いや…あ…」
灯翠は後ずさった。
後ろはもちろん、行き止まりだ。逃げられない。
「逃げようと、してたんだね?」
「あ…ちが…」
灯翠は、ゆっくりと、自分の手を前に出した。
「縛って…ください…」
男が、にやりと笑う。
「いい子だね。でも、お仕置きは必要だね?」