第3章 〇何処にも行かせない(善法寺伊作)
「もう、文次郎ってば。怪我人にまであんなこと言うなんて、だからモテないんだよー」
「…………。」
「あー、それに比べて伊作は優しいなぁ、こんな私の傍にいてくれて」
「当たり前じゃないか」
少しふざけて言った私の言葉とは裏腹に伊作は真剣な表情でそう答えた。
その熱い眼差しは私を見つめている。
「伊作、どうし」
どうしたの?
そう言い終わる前に、私の口は伊作の唇で塞がれていた。
突然のことに身動きの取れない私を、伊作はそのまま優しく抱きしめる。
「、、」
何度も何度も私の名前を呼ぶ伊作。
その度に優しかった腕に力が入っていく。
「、……」
「い、いさ、痛い、腕、痛いよ」
まるで私を探すかのように、私の名前を呼び続ける伊作。
いつもの伊作ならこんな乱暴抱きしめ方はしない。
むしろ、口吸いですら顔を赤らめ恥じらうレベルだ。それなのに。
「……かと思った」
「え?」
「……が、死んでしまうかと思ったんだ」
ぽつり、ぽつりと伊作が震える声で呟く。
「が倒れたのを見た瞬間、体中が冷たくなった。心が張り裂けそうで、不安で、怖くて。がいなくなっちゃうんじゃないかって」
「伊作…」
「でも、もう大丈夫だから。もう誰にも傷つけさせない。の目も、口も、耳も、頬も髪も腕も脚も指先も心臓も全部全部全部、誰にも触れさせない誰にも傷つけさせない。この傷も全部僕が治してあげる。もし跡が残っても、それごと愛してあげる。だから」
何処にも行かせない。
「…………。」
「留三郎、どうしたんだそんな顔して」
「文次郎、俺はあの晩お前より早くたちの元へ辿りついた」
「ああ?それがなんだよ、お前が俺より凄いって自慢か?」
「違う、俺は、」
あの時見たんだ。
あの、伊作が…誰よりも人の命を大事にする伊作が、を傷つけた敵を容赦なく虐殺するところを。
fin