第13章 甘党のあさごはん
ふにふに。優しく頬を突かれる感覚で、目が覚めた。
「菜花ちゃん、起きや」
寝惚けた目線の先に、彼がいる。同じベッドの中で横たわって、二人で散々悩んで買った枕に頭を沈めて、お揃いのパジャマ姿で、微笑んでいる。
「そろそろ起きて支度せんと、お仕事遅刻してまうよ」
ああ、私の頬を突いていたのは、彼の指か。ぼんやりしている私の頬を、今度は掌ですりすりと撫でる彼。
私はその手に布団から脱出した自分の手を重ねて、再び目を瞑る。心地いい。このまま、もうひと眠り、してしまいたい。
「あっ、こら。二度寝したらあかんて」
彼のお叱りの言葉に渋々重たい瞼を上げる。ぱちり目が合ったけれど、彼がふふっと笑った途端、その目は線になって見えなくなってしまった。幼い頃から変わらないこの笑顔、好きだなあ。
「はるとくん、だ」
「うん、俺ですね」
「ふふ……おはよう」
「おはよ。まだちょっと寝惚けてる感じやなあ、大丈夫?」
「大丈夫。夢みたいに幸せだから、少し、ふわふわしてるだけ」
「んもー、あんま可愛いこと言わんといてくれますかね。夢ちゃうから、はよ起きや」
「おきる、ます」
そう言いながらも、私は彼の首の後ろへ両腕を絡めて抱き着き、硬い胸元へ顔を寄せた。とくん、とくん、少し早い彼の心音が聞こえる。着崩れた寝間着の隙間から彼の骨張った鎖骨が見えて、なんだかとても美味しそうだったので軽く口付けたら、見えない頭上から「朝っぱらから誘うのやめなさい」と怒られました。
痺れを切らした彼はとうとう、バサッと勢いよく二人で被っていた掛け布団を取り払う。そして私の肩と膝裏に腕を回して、お姫様抱っこの要領で無理やり私を抱え起こした。すとん、と胡座をかいた彼の膝の上へ横抱きに座らされる。
「わあっ、ルトくんすごい」
「ふふーん、嫁さん抱っこするぐらい余裕やわ」
「さすがやね、びっくりしちゃった」
「ほら、もう目え覚めたやろ? さっさと顔洗って着替えて、ご飯にしよ」
「まだ、ルトくんと、ベッドでごろごろしたい、です」
「だーめ。今日も花屋のお仕事あるんやろ。朝飯、俺が作ったるから。明日は休みなんでしょ、あと1日頑張って。ええ子やから、な?」
「……うん、がんばる」
ぽふぽふ、彼に頭を撫でてもらえると、元気が出る。癒される。おかげで今日も1日頑張れそうです。