第2章 太宰治ノ場合
「ごきげんよう」
私が挨拶をするだけで周りはざわつく。
羨望の眼差し、好奇の眼差し。
嗚呼、全てが当たり前と化してしまったことに嫌気が差す。
私の欲を満たして頂戴。
「ごきげんよう、太宰くん」
「やあ、おはよう。今日も麗しいね。こんな天気のいい日は私と一緒に心中なんてどうかな」
「そうね・・・。それよりも、もっと楽しいことがあるのだけれど・・・」
スッと太宰くんの手に自身の手を添えると、私の言わんとしてることを理解したのか、彼はいいね、と一言だけ呟き席を立った。
教室を出て私たちが向かったのは科学準備室。
この時間科学室を使うクラスはないし、準備室の鍵は教師に借りた。
全学年の時間割を把握することも、鍵を借りることも造作もないことだ。
「うん、いいねぇ。白衣」
太宰くんはロッカーにあったであろう白衣を纏い、どこからか取り出したメガネをかけてご満悦の様子。
作業台に腰掛ける姿は妖艶。
嗚呼、唆る。
「で?楽しませてくれるんだよね?冴子ちゃん」
「ええ、勿論」
引き寄せられるように私は太宰くんの元へ足を進めた。