• テキストサイズ

青 い 花 【文豪ストレイドッグス】

第9章 うつくしき人は寂として石像の如く






―――・・・


トーストの焼ける香ばしい匂いと、珈琲ポットからのたてたばかりのほろ苦い香り。

朦朧とした意識のなか、僅かに開けた瞳から光が射し込んだ。


なまえは眩しさに目を細めながら、未だ気怠い上半身をゆっくりと起こした。
僅かに開いた扉からトントン、と包丁が俎板を叩く音が聞こえてくる。

自室の扉をあけてみれば、キッチンに立つひとつの小柄な背中。なまえの気配に気付いたのか、彼はくるりと振り返った。



「よお、寝坊助。漸と起きたか」



聞き慣れた声が、耳に心地よい。なまえは目を細めながら、口を開いた。



『……中也。何してんの?』



彼の名前を呼んで訊ねてみれば、中也は眉を顰め、答える。



「何、って。見りゃァ判んだろ」



中也は唇を歪めて云いながら、テーブルを指差した。
テーブルの上には、ホテルの朝食のような豪華なメニューがずらりと並んでいる。



『……嘘!何、この豪華な朝ご飯!真逆、中也が作ったの?』

「他に誰がいんだよ」



呆れたように云ってから、中也はくるりと向き直り再び包丁で俎板を叩き始めた。
中也の背中に近づいて、そっと覗きこんでみればそこには、見事なキャベツの千切りが並んでいる。



『流石ポートマフィア!包丁捌きも完璧だ!』

「巫山戯てる暇があるならさっさと残りの皿並べろ」



中也は此方に見向きもせず、キャベツを切り刻んでいる。なまえは『はーい』と気のない返事をしてから、テーブルの上に取り皿を並べた。
こんがり焼けたパン、綺麗に象られたオムレツの傍には高級そうなウインナーや分厚いベーコンが並び、スープからはコンソメの良い香りが立ち上げている。

なまえがぼけっと眺めていれば、中也が慣れた手つきでキャベツの千切りを皿に盛った。仕上げに胡瓜やトマトなどバランスの取れた野菜が色とりどりに並ぶ。
ヨーグルトには丁寧にカットされたフルーツがのせられていて、それはどれもなまえの好きなフルーツばかりだった。

/ 536ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp