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青 い 花 【文豪ストレイドッグス】

第1章 可能性の文字



ここ二年でポートマフィアが新たに得た利益のおおよそ半分は、太宰となまえの功績に依る。その総額が何億になるのか、そのために踏み潰された命が何十人になるのか、一介の太鼓持ちである私には想像もつかない。

無論――代償のない栄光など存在しない。



「また傷が増えたな」



私は酒杯を舐めながら、太宰にまかれた新たな包帯を指差した。



「増えたねえ」



太宰は自分の躰を舐めて嗤った。
太宰の躰には、その対価である傷がいくつも刻まれている。要するに、怪我だらけなのだ、単純に。太宰の躰は常にどこかが修理中だ。太宰が生きて呼吸している場所が、暴力と死の中枢であるということを改めて思い知らされる。



「でも、佳いのさ。怪我をすれば、なまえちゃんが手当してくれるもの」



そう云って太宰は、気の抜けた顔でへにゃりと笑いながらなまえを見た。
なまえはワイングラスに遠慮気味に注がれた葡萄酒を舐めてから、ちらりと太宰の顔を見た。それは睨むような、軽蔑するような、うんざりしたような表情であるが、彼女はどうやったって美しかった。どんなに変な顔をしようが、変な顔には”ならない”のだ。

思わず見惚れてしまうような美しい少女の素顔がマフィアなどと、一体誰が想像できただろう。初めて彼女を見たときには、私も大層驚いたものだ――こんな美しく可憐な少女が、ポートマフィア内暗殺功績最上位という伝説を保有するなど、誰が思うだろう。



『気持ち悪い』



なまえは一言、冷たい声で告げた。顔がどんなに美しくても、口から出る言葉が美しいとは限らない。



『織田作、聞いてよ。治のこの怪我、何が原因だと思う?』



なまえがしかめた顔で訊ねた。



「銃撃戦の結果で負った怪我ではないのか?」

「うふふ。その途中でトイレに行きたくなって、急いだら排水溝で転んだ」

「そうか……急いでいたなら仕方ないな」

『そうじゃなくて!』



なまえが叫べば、入口のほうから声がした。



「織田作さん……今のそれ、突っ込むところですよ」



振り返ると、学者風の青年が階段を降りてくる所だった。


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