第7章 『春日狂想』
「妻と娘は関係無い!!二人を解放しろ!!!殺すなら私だけにしてくれ!!頼む...っ!」
「おや、死にたくないのでは無かったのかな?」
「家族にだけは...手を出さないでくれ...」
「絶望という物を味わった事はあるかい?」
泰子は膝をついた男を見下ろしながら冷たく言い放つ。
「もういいよ、殺せ」
男の目の前で、男の家族は死んだ。
妻は銀によって首を掻っ切られ、横で母親の返り血を浴びながら泣き叫ぶ子供は、芥川の異能力によって首を絞められ、泣き叫ぶ声は段々と小さくなり、やがて消えた。
「あ...、あああああああああっ!!!!」
「今の貴方が一番人間らしいよ。憎めば良い!私も死ぬ迄お前を憎んでやる」
「貴様あああああ!!!」
「──お前の異能力は解っているよ」
男は発狂したように叫びながら泰子に襲い掛かるが、泰子には届かない。
体は宙を浮き、背中からモニターへ叩き付けられた。
「ぐっ...!」
「さあ、家族との面会だよ」
泰子は正面を向いていた男の体を異能力で反転させ、後ろを向かせると、破壊された扉の瓦礫を後頭部へぶつける。
口元にあった段差と頭部からの衝撃によって顎が外れる音と男の絶叫。
更に仰向けにすると、胸に向かって三発の鉛を撃ち込んだ。
「──此れがマフィアだ」
泰子の声は男には届かない。
「帰ろう」
「嗚呼」
転がっている屍と血の海を一瞥すると、二人は扉があった方へ踵を返した。