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生い立ちの歌《文スト》

第6章 『骨』





其れからどのようにして其処を抜け出したのか。どうやって此の街迄来たのか。
泰子は全く覚えていなかった。
行く宛もなく彷徨っていると、一人の少女に出会った。
繊細な襞が目を引く、高そうな服を身に纏った金髪が美しい少女だった。
その保護者だろうか。少し草臥れた様子の男性がその少女の元へやって来た。
男性は泰子を見ると視線を合わせるようにしゃがんだ。



「行く所がないのかい?」

「ない」

「ご両親は?どうしたのかな」

「知らない」

「君は何故此処に居るんだい?」

「思い出せない」

「それなら一緒に来るといい。君はとても良い能力を持っているようだ」



此の儘彷徨い続けたところで、行く宛など見つかる訳もない。
直に野垂れ死にする事は分かりきっていた。
どうせ死ぬのなら──と、差し伸べられた手をそっと握り返した。
森鷗外と名乗った男性とエリスという少女と共に、泰子はポートマフィアへと迎え入れられた。



そこには歳の近い男が二人いた。
決して仲が良いとは言えない二人だったが、二人は泰子を受け入れてくれた。
自然と三人で行動する事が増え、二人の事もよく解るようになってきた。
三人で行動していれば、何でもできるような気がする。
次第に泰子は思うようになっていた。


しかし出会ってから数年後、ミミックとの事件で織田作之助が命を落とし、一人は何も告げずに行方を眩ませた。
もう一人はそれでも泰子の傍にいてくれた。
きっと今も泰子を探しているのだろう。



「中也...助け、て...」



腕に痛みを感じると、徐々に力が抜けてゆく。
段々と意識も薄れてゆく。
必死で思考を巡らせ抵抗するが、それもやがてかなわなくなる。
意識が途切れる寸前、微かにもう一度腕に針が刺さる感覚がした。


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