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生い立ちの歌《文スト》

第6章 『骨』






暗い視界の中、泰子は自分の過去を思い出していた。
幼い頃、借金の肩代わりに両親に売られた事。
全身を拘束され動けない中、薬を投与され続けた事。
次第に体は動かなくなり、思考すら奪われていき、何も考えられなくなった事。
じわじわと思考が鈍っていくこの感覚は、あの頃とよく似ている。
いや、あの頃と同じ事が起きている。



「ごめ...、なさ...い...。わ、たしが...悪い子...だか...ら...おと、うさん...おか...あ、さん...」



言い知れぬ不安と恐怖に押し潰されそうだった。
呼吸もどんどん浅く、早くなっていく。
自分が悪い子だったから両親に見放されたのだと、幼い頃の泰子は思っていた。



「ごめんなさい...許し、て...。良い子に、する、から...!ごめんなさい...ごめんなさい...」



過去の泰子が気付いた時には、周りには自分を覗き込む何人もの大人が居た。
皆がボールペンとカルテを持ち、青緑の手術着の様な物を身に纏い、顔はわからなかったが、皆が皆口元に笑みを浮かべていた事は鮮明に思い出せた。
その笑みが酷く不快で、泰子はボールペンが心臓に突き刺さって死んでしまえば良いのに──そう思った。

次の瞬間、まるで心臓にボールペンが引き寄せられたかの様に泰子の想像した通りになった。
他にも机や椅子等部屋にあったもの全てが、周りの人間に引き寄せられるように勢い良く飛んでいった。
机と壁に挟まれて砕ける骨の音や、グチャリと潰れる内臓、悲鳴、吐かれた血が床に落ちるベチャッという音。

やがて辺り一面は血の海。
暫くは痙攣したようにピクピク動いていた大人達だっが、直に命を落としていった。


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