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生い立ちの歌《文スト》

第4章 『北の海』





「おい起きろ」

「あ、れ...中也じゃないか」

「手前昨日の俺の言葉忘れたのか?」

「何か言ってたっけ」

「起きとけって言っただろうが」



回らない頭で昨日の会話を回想をしていくと、そういえば食事の際にそんなことを言っていた。
ああー。と少し間抜けな声を出しながら泰子はゴロンと仰向けに寝返った。



「荷物リビングに置いといたぞ」

「嗚呼、有難う」



ついこの間中也に渡した自宅の合鍵をこんなに早く使う日が来るとは思っていなかったな、とぼんやり考えながら泰子はのそりと起き上がる。



「手前の家は食糧は無いのか...」

「え?あるじゃないか」

「十秒飯は食糧じゃ無ェよ」

「生きていけたら問題無い」



冷蔵庫一杯に敷き詰められた十秒飯と酒を見ながら中也は呆れ顔だった。
朝食を作ることを諦め、珈琲でもいれようと豆を探す為に戸棚を開ける。



「何種類かあるから好きなの飲んで」

「おー、結構種類あるな」

「試したくなるでしょう」



椅子に腰掛けて新聞を捲りながら泰子は答える。
コーヒーメーカーが音を立てると、部屋に珈琲の香りが広がった。



「取引は何時からだ?」

「二十二時。店が閉店した後だよ」

「了解。で、相手はどうするんだ?」

「知っている事を全て吐かせる。その後は時と場合によるよ。使えそうなら泳がせるし、不必要なら消すだけだ」



バサリと新聞を閉じ、泰子は席を立つ。
リビングを出て行く後ろ姿を見つめながら中也はふう、と息を吐く。
丁度その時珈琲がはいった事を報せる電子音が響き、中也はカップを2つ用意し、珈琲を注いだ。



「これを飲んだら行こうか」

「そうだな」

「着いたら広津さんを呼んで。取引の時間まで黒蜥蜴に店の人間を見張らせる」

「解った」



適度に冷めた珈琲を飲み干し、二人はアジトへと向かったのだった。


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