第4章 『北の海』
「首領、長谷川です」
叩敲の後そう告げると、中から入って、と声が聞こえる。
失礼します、と一言告げて扉を開けると鷗外とエリスが椅子に座りながら泰子と中也を振り返った。
「中也、泰子。君達が今行っている任務の件なんだけど...」
「リンタロウ、泰子怪我してるわよ」
「えっ、あっ、エリスちゃん。あれは...あの怪我は大丈夫だよ!」
鷗外は泰子の首筋の跡とエリスを交互に見ながら少し慌てた様子でエリスを宥めた。
泰子は居た堪れない気持ちでじとりと中也を睨み付けた。中也はバツの悪い表情をしながらも彼女の視線から逃れた。
「えーーーっと。それで、任務の話ね」
少し長い間を空けて鷗外が仕切り直す。
「二人が探っている"薬"の件なんだけど、どうやら政府が絡んでいる様なんだ」
「真逆」
「私も驚いたよ。この事件──中々手強いかもしれないね。二人共頼んだよ。解決さえすれば後は君達の好きにして善い」
「...わかりました」
「それじゃあ、気を付けて」
「──はい」
二人は鷗外へ一礼すると執務室へと戻った。
「おい、手前今回の件どう見る」
「──そうだねぇ。政府絡みというなら向こうも相当必死だろうし。首領の言う通り中々上手く事は運ばないだろうね。そして薬を作る事が目的では無く...更に何かが裏で行われている筈」
「そうか」
「兎に角。先ずは手近な所からいこうか。昨日頂いたデータに売買のやり取りが残っていた」
「随分不用心だな」
「莫迦か。勿論綺麗に消してあったさ」
復元させたのかと中也は理解し、泰子のパソコンの画面を覗き込んだ。
復元されたメールのやり取りを見ると、直接的な単語は無いものの、店で使う品物の仕入れのメールとは微妙に異なる文章が並んでいる。
「このメールの相手に成り済まして取引を持ち掛けた。恐らく店の何者かは気付かずに現れるよ」
「流石だな」
「まぁね。却説、返事が来る迄出掛けて来るよ」
「サボる気かよ!」
「善いじゃないか。ちゃんと働いているでしょう?」
はぁ、と溜息を吐きながらも中也は泰子を止める事はしなかった。泰子はにこりと笑ってから外套を羽織ると街へと出掛けて行った。