第19章 失われていたもの
「いったい何事だい!?」
いつも飄々としているチェヨンだったが、この時ばかりは眉にしわを寄せ、この状況を把握しようと、とっさに考えているようだった。
「リョン…リョンヘ様が…!急に具合が悪くなったんです…」
こんな時に自分のできることはなんて少ないのだろう、とハヨンは少し泣きそうになっていた。
「少し待っていな。医術師を呼んでくる。不安かもしれないが、王子には声を掛け続けるんだよ。」
ハヨンはチェヨンの言葉に頷いた。チェヨンが現れたことによって多少落ち着いたが、それでも医術師がくる間にリョンヘに何かあったらと思うと、不安でたまらなかった。
「もうすぐ、医術師がくるから…」
と何とかして上体を起こし、座り込んだハヨンは少しでも苦痛が和らぐよう、リョンヘの背中をさする。しかし、何もできない自分が好きなもどかしかった。
しばらくして、先ほどより数が増えた慌ただしい足音が聞こえ、医術師を連れたチェヨンが現れた。
「とりあえず、王子を寝台へ。まず王子の診察をさせてもらう。ハヨン殿、申し訳ないが、しばらくの間椅子で我慢してもらえるか。」
「はい。ただ私も誰かに手を貸してもらわないと立ち上がれないので、このままでも大丈夫です。」
チェヨンではハヨンの肩を貸すと潰れてしまいそうだし、医術師はリョンヘにかかりきりになる。地べたで伏しているわけでもないので、このままでも支障はない。
「何言ってるの!あなたも重傷でしょ。少しは休みなさいよ。」
と、背後から声がかかる。振り返ると、戸口からムニルが覗いていた。彼はむっと唇を尖らせている。そしてずんずんとハヨンのもとにやってきて、肩に手を貸す。
「ほら。私が手伝うから椅子に座りましょう」
「ありがとう、ムニル。」
ハヨンは背中の傷に触れぬように椅子に浅く腰掛けた。リョンヘの横たわっている寝台へと目を向けると、医術師がリョンヘを診察している。
「うーん。呼吸もだいぶん落ち着いたし、悪いところは大して見当たらない。少し様子を見ましょう。」
しばらくの間、リョンヘの体をあちこち診ていたが、首を捻りながらそう告げた。
「では、私は近くの部屋で控えているので。」
医術師が退室したあと、ハヨンはリョンヘのもとへと駆け寄りそうになったが、自分がまだろくに歩けないことを思い出す。