第15章 Episode 14
「社長、私...Sakuraとしてライブをしたいです」
「それは、顔を出す、という解釈でいいかな?」
「はい。色々なコンサートを見て、私もファンの反応をこの目で見てみたい。今まで怖くて逃げて来ましたが、今ならしっかり向き合える。そう思ったんです」
気持ちを伝え、大きく息を吐く。
社長は柔和な笑みを崩さず、どう考えているのかはわからなかった。
「いいよ」
「え...」
「実はさくら君にドラマの話も来ているんだ」
「え...?え?」
社長の言葉に頭が混乱して、間抜けな声しか出てこない。
ライブをしたいという私の申し出に、いいよと言ってくれたことまでは理解出来る。
しかし、ドラマというのは...?
「ナギ君のスピーチの時に、スプレー缶を蹴り飛ばしただろう?その様子をテレビで見ていた監督さんが、あの子は誰だ?と私に声を掛けてきたんだ」
そういえばそんなこともあったな、と記者会見をした日のことを思い出した。
あの時は、体が勝手に動いていたから気にしていなかったが、テレビに写っていたのか。
「その時はSakura君だということは明かして、正体は内密にして欲しいと頼んでいたんだけど、その監督さんがつい先日出演が無理なら主題歌だけでも、と言ってくれたんだ。主題歌を出せればライブも組めるだろうし、どうかな?」
「っ、やります!やらせてください!」
「ドラマの出演はどうする?」
「演技は、正直自信はないですが...今は、色々なことに挑戦したいです」
「そうか。では先方にはそう伝えておくよ」
「ありがとうございます...っ!」
そう言って私は勢いよく頭を下げた。
やっと、前に進めた気がする。
頑張るんだよ。社長の優しい声が降ってきて、私は顔を上げた。
社長の横ではお兄ちゃんが頷いている。
私はもう一度頭を下げ、社長室を後にした。