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雪解けの春《アイナナ》

第8章 Episode 7





翌日、ピシッとしたスーツに身を包んだナギは、普段よりしっかりして見えた。
ナギと社長と紡ちゃんが壇上の椅子に腰掛け、私は袖の方からスピーチを見守った。
普段の話し方からは想像もつかない流暢な日本語に、私を含めメンバーや社長、紡ちゃんも目を丸くしている。
本当に誰なんだ君は。
しかし、ナギのスピーチで会場の空気はガラリと変わった。ピリピリとしていた空気が、ナギの言葉で刺々しさがなくなったのだ。
ふと、ナギが私の方を見て、微笑んだかと思うと、"アナタのおかげです"と。たしかにそう口を動かした。



「私の、言葉で...」



たしかに原稿を考えたのは私だったが、ナギの力のおかげで空気が変わったのだと思っていた。
私の言葉とナギの声。2人の力でこの場の空気を変えることが出来たのだろうか。
少しでも彼らの力になれたのだろうか。
熱い何かがグッと私の胸に込上がってきた。



「──ワタシからは以上です。質問をどうぞ」

「裏切り者のハルキの落書きについて、どのようにお考えですか?」

「非常に強い憤りを覚えています。ハルキは自身で作曲した曲を彼の好意からワタシに譲渡してくれました。サインの入った権利譲渡の契約書も存在します」

「ゼロについては、どう思われますか?」

「ここにいらっしゃる多くの方々と同じように、彼と彼の作品に敬愛を抱いています。また、ハルキのパートナーとして、親しみを抱いています。ワタシたちは、一連の事件がゼロ本人の犯行だとは考えていません」



ナギは悪いのがゼロではなく、落書きの犯人であるとマスコミを誘導した。
ゼロの味方は犯人ではなく、こちら側なのだと印象づけたのだ。
本当に大勢を前に話すことに慣れている。
そんな良い雰囲気の中で、私は記者席の向こう側から紡ちゃんに向かって何かが飛んでいくのを見た。



「っざけるな...!!!」


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