第8章 Episode 7
「ナギ、入っていい?」
ナギの部屋の扉をノックすると、中から返答がくる。
部屋に入るとそこには先客がいた。
「一織...紡ちゃん...」
「こんばんは、さくらさん」
紡ちゃんが挨拶をすると、一織も軽く一礼してくれる。2人の手には資料。
明日のスピーチのために用意したものだろう。
「スピーチの原稿、こんな感じでいいかな?ナギが自分で考えた方がいい文章思いつくと思うんだけど」
「いえ、"共感"という部分に関しては、サクラ。アナタの右に出る者はいません。だから、ワタシはあなたに頼んだのです」
「そっか...ありがとう。ナギの話しやすいように変えてね」
「スピーチの原稿は、さくらさんが?」
「うん。この間ナギに頼まれて」
一織がナギから原稿を受け取り、パラパラと捲っている。スピーチの原稿なんて書いたことがないから、なんだか緊張する。
「そしてサクラ。もう1つお願いがあります」
「なに?」
「明日、サクラも壇上に上がってください」
「はい?」
「アナタの言葉の力─サクラ自身の目で見てほしいです。あとワタシの勇姿も」
そう言ってウインクをするナギは、誰が見ても惚れ惚れするほど綺麗だった。
「袖の方なら...。カメラに写らないところくらい」
「わかりました。では明日、共に参りましょう」
「うん」
そうしてスピーチを袖から見守ることになった私は、クローゼットの奥に眠っていたスーツを引っ張り出し明日に備えて早めに就寝した。
大丈夫、きっとナギが上手くやってくれる。