第3章 Episode 2
数日後、私は環に借りた服を返そうと事務所へやって来た。するとレッスン場の方から皆の声が聞こえて来たため、そちらへ顔を出す。
「おー、さくりん!」
「環おはよー。皆もおはよ。頑張ってるね」
「さくらさん!ゼロアリーナのこけら落としにRe:valeがオレ達を推してくれて、今度のライブを総支配人が見に来てくれるんです!」
「へぇ!すごいね」
陸が生き生きとした表情でRe:valeの番組に出た時のことを語ってくれた。
いつもに増して練習に熱が入っているように見えたのはそういうことだったのか。
「皆ならきっと大丈夫。無理せずに頑張るんだよ!あと環、服ありがとうね。ここに置いとくから帰りに忘れないでね」
「洗濯、してくれたのか?」
「うん。借りたものだし」
「別によかったのに。わざわざ、ありがとう」
「こちらこそありがとう」
その後練習を再開した彼らの邪魔をしないよう、レッスン場を後にした私は、差し入れにスポーツドリンクを買い、マネージャーの紡ちゃんへと預けた。
いつ見てもふわふわしていて可愛い子だ。
「ありがとうございます、さくらさん。冠番組の話は聞きましたか?」
「うん、お兄ちゃんから聞いたよ」
「実は、『君と愛なNight!』の裏番組がTRIGGERの番組なんです...」
「はは!あの八乙女社長の考えそうなことだね!」
八乙女社長はうちの社長を目の敵にしていて、IDOLiSH7とTRIGGERも人気争いが熾烈化している。
裏番組に持ってきたということはそこでも競わせようという魂胆だろう。
「今度のライブ、頑張ってね。私も見に行くよ」
「ありがとうございます!皆も喜ぶと思います!」
そして紡ちゃんと別れを告げ、何か曲作りのアイディアになるものはないかと私は街へと繰り出した。
あちこち歩いていたが、ふと思い立って工事中のゼロアリーナの見える場所へやって来た。
「あそこでライブをするんだね、ユキ」
あんな大きい場所でたくさんの人に愛されて、ユキはもう私の手の届かない遠い人になってしまったんだな。
「んー、今日は進みそう。忘れないうちに帰るか!」
不思議とやる気が湧いてきた。
今日は寝不足になろうと作曲を終わらせよう、そう決めて私は軽い足取りで家へと向かった。