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ここはシリーズif短編【HUNTER×HUNTER】

第7章 彼女は花に成る





彼女の手にパティシエの若い男の手が重なっていて随分と親しげな姿を前に


俺はどんな顔をしているだろう






「違うんですイルミさん!!!」




彼女の悲鳴にも似た声が耳を通り過ぎて行く


「何が?」


「俺の連絡には必ず出ろと言ったよね。」


「その男と何をしてた訳?」


「……………もう良い」



俺は彼女を力任せに連れ帰った

彼女が何を話していたかは思い出せない


ドロドロと黒い感情が犇めき合って思考の全てを支配した



彼女が俺の帰宅迄に戻らない事等無かった

彼女が俺の連絡に反応しない事等無かった



彼女は俺だけのものの筈だった

彼女は俺だけを愛している筈だった


俺は彼女と出会って初めて沢山の事を知った


花や空の美しさ

些細な会話を交わす大切さ

人を想う気持ち

想われる暖かさ

日常の穏やかな時間



………………そして絶望と悲しみ





泣きじゃくる彼女は何度もあのパティシエを庇った




彼女は俺を裏切った



穏やかな日々が脳裏を過ぎて行く




彼女が愛しくて大切で



だからこそ彼女を許せ無かった




恐怖に染まる彼女の瞳が頬に涙を流す様をとても綺麗だと思った



「………沙夜子、一緒に眠ろう。」





彼女に針を刺した



力を無くし豊かだった表情すらも無くし床に身を伏せた彼女は何故か部屋を埋め尽くす様な大輪の花に姿を変えた


決して老いもせず朽ちもしない花








………………本当は殺そうと思った




だけど出来なかった



殺せも許せもしなかった俺の気持ちが彼女を花に変えたのか

其れとも彼女の意思がそうさせたのかは俺には解らない


………………もう何だって良いんだ


先には進めず戻れもしない


彼女の居ない世界で俺は生きて行けはしないのだから



「………おやすみ………沙夜子。」



俺は彼女が咲かせた大輪の隣で自ら針を刺した


永遠に目覚める事は無い


止まった時の中……………彼女と共に




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