第1章 招かれざる客
「でも誰も住所知らないんだったら緊急の時困りません?」
先程から国木田に何を云われようとビクともしなかった太宰はガバッと起き上がると顔を輝かせながら話す。
「そうだよ敦君!!其の通りだよ!!万が一高熱が出てもこれじゃあ私が看病に行けないではないか!」
「貴様に看病など行かせるものかっ。」
『社長と与謝野さんは知っているので緊急の時はお二人へ。其れに高熱が出たとしても大丈夫ですから。』
「生憎私は弱っている美女を放っては置けないタチでね。」
「太宰!!口ではなく手を動かせ!手を。」
「酷いなー、国木田君。ちゃんと手も動かしているではないか!」
「愛理に抱き着けという意味で云ったのではない!書類を片付けろと云う意味だ!」
「だってー、賢治君。窓から捨てちゃって良いみたいだよ?」
太宰は愛理が拒絶しないのをいいことにちゃっかし抱き着いたまま顔だけ賢治の方を向く。
「分かりました!」
「違ぁーーーう!!待て、賢治!捨てるなぁぁぁぁぁ!!」
今にも書類を窓からばら撒きそうな賢治を慌てて止める国木田に注目が集まる中、敦は苦笑いを浮かべ彼女にこっそりと近寄った。
「あはは……、愛理さんも大変ですね…。何か自宅を教えたくない理由があるのは分かりますが、本当に辛い時や非常事態は頼って下さいね?」
『うん。敦君ありがとう。』
「ちょっとちょっとー!僕の愛理に近付こうなんて100年早いよ。」
『私、まだ誰の物でもありません。』
「何それ。突然レオタードでダンスとか踊り出さないでよ?」
『乱歩さんが仕事をしてくれればそんな事しませんよ。』
「むうぅ。」
愛理に絆された名探偵は珍しくパソコンとにらめっこを続けた。
———————一時間だけであったが。