第3章 夢
「うん、良い眺めだね。」
『っ!?太宰さん!?』
「愛理ちゃんは隙が無いからなかなか良いところを眺められなくてねぇ。」
「手前ェは変態か!!……宮野乗れ。」
『へ!?』
「その格好で帰らす訳には行かねェだろ。早く乗れ。帰ンぞ。」
そのまま中也に手を引かれ進もうとしたが反対の手を引っ張られたことによってそれは儘ならない。
そうさせた人物を見ると相変わらず飄々としていて何を考えているのかは分からなかった。
「ンだよ!手前は自分で帰りやがれ。」
「今回ばかりは中也に任せるよ。車の方が安全だからね。ただ、愛理ちゃん約束を忘れてはいけないよ?」
『……分かりました。では、お疲れ様でした。』
ったく何なんだよ、と物々文句を言いながら今度こそ車へと向かい助手席に乗せられる。
自宅の場所を告げると何やら新妙な面持ちで問いただされた。
「太宰の野郎、随分と宮野のこと気に入ってんじゃねェか。」
『可愛がって下さってますね。』
「いやいや、如何考えてもその範疇超えてるだろ!…真逆付き合ってンのか?」
『そういうのでは或りませんよ。ただ出逢った時に太宰さんが没する時私は共に在ります、と云っただけです。』
「それが先刻彼奴が云ってた約束ってやつか。」
『はい。』
中也さんはふーん。とだけ云うと何やら考え込んでしまったようだ。
自分で否定しておいて哀しいが、太宰さんも太宰さんで付き合っていないのならばある程度はそっとしておいて欲しい。
醜い欲望が増えるだけなのに。
『中也さんはお付き合いされている方は?』
「あァ?んなもン居ねェよ。それより中也でいい。あと敬語も外せ。」
『分かった。じゃあ私のことも愛理で。中也お洒落だからモテそうなのに…。』
「本ッ当に彼奴と正反対の性格だな!何なら今度一緒に服買いに行くか?」
『良いの!?行きたい行きたい!』
何の気なしに。いや、下心が無いと云えば嘘になるが中也は誘いを断られなくてホッとした。
それどころか嬉々とした表情を浮かべている彼女を盗み見る。
『これ私の連絡先!中也忙しいだろうからこっちが都合付けるね!』
「そうして貰えると助かる。すまねェな。」
青鯖と違って何て気遣いの出来る良い子なンだ、と感動した中也であった。