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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第3章 夢




目的のコテージに近い茂みに私達三人は隠れる。
理由は簡単、扉の前に見張りが居たから。
人身売買は高額な取引の上に運ぶ物の大きさ故に人目に付きやすい。
先ずは私が…


「先ずは愛理ちゃん見張りを片付けてくれるかい?」

『えぇ。元よりその心算でした。』

「あァ?そんな慎重に行かなくてもいいだろ。さっさとやってさっさと帰んぞ。」

「中也、私の作戦立案が間違っていた事は?」

「…無い。」


悔しそうな顔をする中也さんを横に太宰さんを見ると、“気をつけて行っておいで”と頭を撫でてくれた。
優しい太宰さんは私には人一倍優しい、気がする。


そう云えば初めて会った時もそうだった。
勤めていた会社の損失の全責任を取らされ辞職した。
勿論その役目は上司であると共に親しい友人であったはずなのに。
会社は損失の原因をろくに調べもせずに友人の言葉だけを信じ私を追い出した。


罵声を浴び続けながら辞表を出し帰宅する途中で私は限界だったのだろう。
フラフラと川の土手へ向かうとそのまま川を眺めていた。
すると彼が声を掛けて来たのだ。
「其処の美しいお嬢さん、良かったら私と心中して頂けませんか?」と。
全てにおいての気力を無くしていた私は、『私で良ければ。貴方が没する時私も共に在りましょう。』などと云った。


別に自殺しようだなんて考えてなかった。
ただただ川を眺めていただけ。
でもこの人となら、一緒に居てもいいかも知れない。
何となくそう思っただけ。


それから彼に手を引かれ武装探偵社というところに連れて行かれ経緯を全て話すと事務員として雇ってくれる事になった。
そしてその後すぐに起きた事件で異能力を使った私は晴れて事務員から社員として正式に入社という事になった。


太宰さんが何処まで見越していたのかは知らない。
唯の気まぐれで声を掛けただけかもしれないし、最初から異能力者であることを見抜いていたのかもしれない。
でも彼も私も共に在ることを決めた。
たったそれだけのことでそれ以上は無い。

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