第15章 固縛
「何故異能を使用しなかったのですか?」
『え?』
「部下に聞きました。全く使用してなかったと。」
『あ、あぁー。あれはね、なんか卑怯な気がして。』
「卑怯とは?」
『中也も芥川君も姐さんもみんな戦闘用の異能でしょ?あ、治は別として!私は気配を消して戦うのは狡いと思うの。みんなは相手に面と向かって戦ってるのに私だけ傷一つ受けずに戦う事が出来る。』
「……。」
『だから誰にも負けないくらい実技も鍛えてるの。其れこそ異能に頼らなくても良いぐらい。まぁ、流石に中也には負けるけど。』
ジッと黙って聞いてくれていた芥川君は顎に手を当て何かを考える様な素振りを見せた後、彼は私の目を見てはっきりこう云った。
「解せぬ。」
「其れが愛理さんの異能。臆する事無く堂々と使えば良いのでは?戦闘だけでなく支援や参謀としても優秀で或るからして其の様な遠慮は要らぬ。」
まるで訳が分からないと云わんばかりに云い切った彼に私は笑ってしまい、更に彼は其の表情を深めた。
『あははははっ、そうだよね!何悩んでるんだろうね、私。芥川君の云う通りだよ。異能を使う事に躊躇して仲間を殺されたら意味無いしね。』
「えぇ。」
『本当に有難う。芥川君には何度御礼を云っても足りないね。』
「………愛理さんの支えになれましたか?」
『勿論!』
「これから、何か或れば他の誰かではなく僕の事を頼って欲しい。逆も然り。僕を支える人は愛理さんだけで良い。」
『其れって……』
「慕っている。貴方の事を。」
『え!?え?私?』
戸惑いを隠せない私に彼はそっと触れるだけの口付けをした。
「返事は?」
『はっ、はい!!私も、す、好きです!』
満足そうな顔をした彼はもう一度口付けをすると何時でも連絡しろ、とだけ云い残し出て行ってしまった。
『何時のまにか敬語外れてるし……。』
凶暴な部下からドキドキさせられるのも悪くはない。
嗚呼、自分は既に芥川君を支えにしていたのだ。
そう気付いた私は怪我が完治するまで退屈に思う日は一日たりとも無かった。
END