第2章 伝説の忍が隣で悩んでいました(小太郎)
なあ小太郎
「どこの国に腰痛で苦しむ老人に自発的に薬草を煎じる忍がいるだろうか」
「どこの国に命ぜられる前に茶を差し出す忍がいるのか」
「どこの国に」
隣の忍に視線を向ける
「戦に負けた主を見捨てず、隠居後も身の回りの世話をする忍がいる?」
「っっ!」
北条は先の戦で武田に負けた。
その際、氏政は隠居。
今は元北条領の山の中、こじんまりとした庵で数人の風魔忍と小太郎に世話をされ暮らしているのだ。
風魔一族との契約も切れたはずだったのだが、小太郎は氏政についていくことを望んだ。
武田信玄はいくつかの条件をつけそれを了承した。
氏政にもう武田に楯突くような気概がないことと、小太郎が春之の友人であったからだと思われる。
例え友といえども戦場では敵同士、もちろん二人は刃を交えた。けれどそこには何の怨恨も残りはしなかったが。
「そんなお前を、氏政殿が可愛がらないわけないだろう」
そういうと、「(・・・主は元々ああいう方だったのだ)」と不貞腐れたように言った。
「ははっそりゃもう氏政殿がそういう性格だったと思うしかないなぁ。だが、お前がついてきてくれてうれしかったんだろうよ。きっと誰か下男でも連れて行く気だったろうが、下男の存在も、お前のその後も気になって気が休まらなかっただろうからなぁ・・・」
「(・・・今は・・・)」
「そうだな。今は小太郎がいるから、氏政殿は幸せだな。」
ニコニコとそう言ってやると、小太郎は照れたのかフイと余所を向いてしまった。
しばしケラケラ笑っていると。
小太郎は立ち上がった。
「帰るのか」
「(オカンとやらが来そうなのでな)」
風を起こし、黒い羽が舞った。