第1章 貴女は僕の太陽
先生には妹がいる。
俺が初めて彼女に会ったのは、先生の弟子になって数日経ってからのことだった。
いつものように先生の部屋を訪ねると、こじんまりとした居間にちょこんと彼女は座っていた。
「君がジェノス君?」
にこっ、と花が咲いたように笑って、初対面だというのに彼女は気さくに話しかけてきた。
そんな彼女の姿が視界に入った瞬間、俺は思わず息をのんだ。
なぜなら、彼女の容姿は俺が今までに出会ったどの人間よりも美しく、小柄なその体躯と相まって、まるで上等な人形がいるかのような錯覚を覚えたからだ。
つやつやとした黒髪に、ぬけるように白い肌。髪と同じ色をした大きな瞳、すっきりと通った鼻筋に、小さな桜色の唇。
破顔して笑ったその顔は、少女を思わせるほど幼く見えた。
先生には少し年の離れた妹さんがいるのだな、などと思ったが、その後すぐに、彼女は自分より3歳も年上の22歳であることが分かり、そのあまりにも幼く見える容姿に思わず目を疑った。
せいぜい十代半ばくらいにしか見えない。これでも少し高めに見積もっているから、彼女の実年齢を知らない人間の目にはもっと若く映るのかもしれない。
さんは先生の隣の部屋に住んでいて、翻訳の仕事をしていると聞いた。
なのでもっぱら在宅での仕事が中心で、たまに出かける事といえば仕事の資料を探しに本屋を回るくらいだと言っていた。
隣の部屋なので、ほぼ毎日先生の部屋に夕食を作りに来て、一緒に食べているという。
これまで俺と鉢合わせなかったのが不思議なぐらいである。