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それでも…世界を愛そう『文豪ストレイドッグス』

第3章 帽子の似合う君。


「良いか、中也。菊乃姐さんは本当に多忙で会いに来る事は先ずありんせん…なにより私の為に大事な時間を割いてくれると云うのは貴重な事なんじゃ」
「は、はぁ…」
「菊乃姐さんが直々にこちらへ来ると云うのも大変失礼に当たる、私が行くまで時間を稼げ。良いな。菊乃姐さんを退屈させるでないぞ?」

そんな無茶な…と少年、中原中也は思った。先ずは菊乃に今の事を伝えなければと黒電話を切り、走って菊乃の元に戻る。壁にもたれ掛かりながら軽く手を振り微笑む菊乃の姿は美しいと云う言葉に尽きた。緊張で戸惑い狼狽える姿を悟らせたくはなくて頭を下げる。未だに頭の上に被るお洒落な帽子をどうしようか悩んでいれば、視界が明るくなり頭から軽い重さが消えた。

「急だったから紅葉も困っただろうね…中々休みが合わないから、顔だけ見たら帰ろうかと思ったんだけど…」
「いえ、白雪幹部。姐さんは貴女にお会いしたいのでここで待っていて欲しいとただ今連絡がありまして」
「ここで、かい?」

座る場所すらない長く綺麗なタイル張りにされた廊下で、ぽつんと二人だけがいるこの状況に目を丸くする菊乃の言葉と雰囲気で、直ぐ確かにそうだったな!と中也は頭を抱えた。絶対に菊乃を退屈させるなと言った紅葉の言葉と、こんな冷えるだろう居場所で退屈しのぎをさせるのは余りにも今の中也には酷な話だ。上級幹部で紅葉の師であるポートマフィアの高嶺の花と呼ばれた白雪菊乃。逆に紅葉が引き取りポートマフィアに入ったばかりの新人の少年、中原中也とでは立場が違い過ぎる以上に普段なら近付く事すら許されないだろう。

「君の名は?私は知っての通り、白雪菊乃だ…宜しくね」
「俺は中原中也と言います。書類に掲載されて既に目を通しているとは思いますが、姐さん…いや、尾崎紅葉さんに引き取られてポートマフィアに入った新人です」
「中原中也、ね…ならば君の事を中也と呼ぼう」
「………はい?」
「ここでは冷えるし、紅葉と一緒に君もどこか落ち着いた喫茶店とかでゆっくりしないかい?」
「えっ、俺も…ですか?」
「忙しかったり、私と一緒が肩身が狭いとか息苦しく感じるなら薦めはしないよ」

そう言われたら断れねぇじゃねぇか!と中也はふうと吐息を漏らした。
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