• テキストサイズ

それでも…世界を愛そう『文豪ストレイドッグス』

第2章 笑顔が下手な君。


菊乃の命で部下達は一斉に動く。無駄のない動きに周りの士気は上がる。ただ治は前衛で殴り、蹴り敵を蹴散らしながら指揮をする菊乃の事を気がかりに見ていた。菊乃はまだ一度たりとも異能力を使っていないからだった。手慣れた動きで拳銃を撃ち、殺さないように腕や足を確実に狙って撃っている。目にも留まらぬ速さで戦場を駆け抜けるその姿は、王者に相応しく闇世界であるのに眩しく輝いて見えた。

「人を一人殺せば人殺しであるが、数千人殺せば英雄である…なんて云うよね」
「……」
「と云っても、私は英雄にはなりたくはない…目の前にいる彼らにだって家族や友人がいるだろう。甘ちゃんだって周りは云うけれど…まだきっと存在価値のある相手を殺すのは矢張り勿体ない。と私は思うんだよ」

ひゅっ…ガッ!と回し蹴りで一人、肘で顔面に食らわせてまた一人床へ崩れ落ちる、長い黒髪がさらりと風になびいた。帽子が床に落ちる寸前で手からかすみとるその姿すら自然の動作で、美しかった。そう瞬きすら出来るはずもない優雅さすら感じる菊乃の優しげな笑顔にドクリと治の心臓は大きく跳ねた。

「くっ!ポートマフィアの狗がぁあああ!!」
「白雪さん、危ないっ!」

ボスが異能力者なのは知っていた。治の切羽詰まった声を耳にして、ボスの方に向くと拳銃が菊乃の方に向けており光の速さで撃った。勢い良く放たれた光の弾丸に、治は手を伸ばす。瞬時に思った、この人は死んではいけないと…その時。菊乃は深い深い笑みを零した。

「貴方に私は殺せない…太宰治『人間失格』」

キンッ!と弾かれるように光の弾丸は消えた。ボスは呆然と立ち尽くし、恐怖した。そして新人で入ったであろう三下のポートマフィアの部下を人質に捕った。そこまで情けを掛けられない、そう仲間から一斉に拳銃を向けられた三下は「助けて…い、嫌だ、し、死にたくなっ…」と涙を流した。パラパラと先ほどまで持っていなかったであろう本を持ち、スノーフレークの絵が描いてあった詩織を挟んでいる。菊乃はまたぽつり呟く。

「私の部下を人質にとったりして…貴方は覚悟。出来ているんでしょうねーー…さぁ。もう一度…時を巡り、弄ばれようか」

何が起こったか分からない。先程まで三下の部下が人質に捕られて、仲間から拳銃を向けられて…それから?
/ 10ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp