【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第3章 秋霖 ②
「八重様!」
戻りが遅いことを心配したのか、馬車で待っていたはずの闇路が小走りでこちらにやってくる。
そして八重を引き留めている天童を見て眉を潜めた。
「天童殿、八重様に御用でしたら私が承りましょう」
「そんな怖い顔をしないでよ。ちょっと立ち話をしていただけだヨ」
天童は闇路に対してもヘラヘラとした態度を崩すつもりは無いようだ。
手を裾に隠したままパタパタと鳥のように動かし、八重の横をするりと抜ける。
そして薄く笑いながら木兎家の令嬢と執事に向かってペコリと頭を下げた。
「ご機嫌麗しゅう。ボックンによろしく」
右手は後ろに、左手を腹に当てる異国式の礼。
小馬鹿にされた気分だったが、天童が只者でないことは明白だ。
「・・・彼はいったい何者なの? 牛島家に居候していると言っていたけれど・・・」
馬車に乗り込んでからすぐに聞くと、闇路は困ったような顔をしながら答えた。
「天童殿は牛島家の世話になっている書生です」
「光太郎様のご友人ではないの?」
「彼についてはあまり良い噂を聞いておりませんが、困ったものです。旦那様を“ボックン”呼ばわりするとは・・・」
仮にも大名の血を引く伯爵に対する呼称ではない。
世が世なら打ち首になっていた。
「年齢は旦那様と同じ十八ですが、牛島家の援助で米国に三年間留学していたそうです」
ならば駒鳥の歌を知っていた事も頷ける。
それにしても、牛島家のような厳粛な公家が、あのように上調子な男を支援するとは驚きだ。
「なんでも、幼い頃から人心掌握術にかけて非凡な才能を発揮していたとかで、他人の行動の一歩、二歩先を読むことができるそうですよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「ですが、八重様が相手になさるような人間ではありません」
闇路は八重と天童では家柄も身分も違う、と言いたいのだろう。