第1章 王馬くんがクッキーを作ってくれたそうです
「やぁ、逢坂さんこんにちは。…あれ。あの二人は何を騒いでるの?」
『遊びのゲームで本気になる奴は許されるのか、許されないのかについてアクティブに議論してます』
へぇ、別にどっちでもいいよね、と笑って言う狛枝先輩の言葉に、私はコクリと頷いた。
「そのクッキーどうしたの?見るからに危なそうな色してるね」
『…これは王馬くんが私にくれたんですけど、トマト味とデスソース味が混在してるらしいです』
「へぇ、左右田クンが真っ赤な顔してるのは、きっとハズレを引いちゃったからなんだろうね」
そう言って、狛枝先輩はクッキーの袋から一枚を選んでまぐまぐと食べ始めた。
その大胆不敵さに絶句して先輩を見つめていたけれど、彼はいつもの飄々とした顔を崩すことなく、ゴクリとクッキーを飲み込んだ。
「あ、ほんとだトマト味。美味しい」
『…………よく食べる気になりましたね』
「え?あぁ、一応こんなボクにも、ゴミみたいな才能はあるからね。この学園のみんなに比べたら、本当にどうしようもなくダサくて公害レベルの才能が」
『えっ。公害レベルの才能って一体…?』
「…うーん…逢坂さんの才能に比べたら本当に残念なんだけど…ボクの才能はね、超高校級の幸運って呼ばれるものなんだ。つまり、ボクが幸運に恵まれるってことは、誰かが不運に見舞われるってことと同義だからさ」
ね、とっとと死んだ方がいい才能の持ち主だよね、と自嘲する狛枝先輩の後頭部に、鈍器になりかねない飲みかけのコーラのペットボトルが飛んできた。
「いてっ」
(……本当に幸運に恵まれてるんだろうか)
「ちょっと痛いよ、左右田クン。逢坂さんに当たったらどうするの?」
不満げに振り返った狛枝先輩は、タネをパンパンに頬に詰め込んだリスのように牛乳を口に含んでいる左右田先輩を見て、一瞬黙った。
そして、ぶはっと噴き出して笑いを堪えられず、左右田先輩にドロップキックをされた。