第1章 王馬くんがクッキーを作ってくれたそうです
「ロシアンクッキーだよ!さぁさぁ次行ってみようか!」
と楽しそうに言う王馬くんの頭を、ふざけんじゃねェエ!と絶叫し続ける左右田先輩が叩こうとして、うまくかわされてしまう。
「勝手に食べたのは左右田ちゃんでしょ?オレは逢坂ちゃんの為だけに作ったのにさ」
『このクッキー捨てていい?』
「えっ、ひどいよ!ちゃんと美味しいのだって入ってるって!」
「ゔゔゔぁあああぁあ焼けらぁあア!!」
『左右田先輩の絶叫が人間のものとは思えないんだけど、これただのハバネロ味?』
「ううん、デスソース味」
『デスソース…?』
コーラをパンパンに口に頬張ったまま王馬くんを追いかけ回す左右田先輩に、牛乳を手渡す。
デスクに置いてあったノートパソコンで検索をかけ、その香辛料のスコヴィル値を見た。
(…………)
何も言わずにそのページを閉じる。
きっと今その事実を伝えてしまったら、研究室が殺害現場となってしまうに違いないからだ。
「おま…っふざけんじゃねぇ、遊びでこんなもん作ってんじゃねーよ、もっと手加減しろ!!!タバスコレベルでいいだろが!!!」
「は……?ふざけてんのは左右田ちゃんでしょ?遊びだからこそ、いつだって本気でやらなきゃダメなんだよ……真面目に、真剣に、逢坂ちゃんとゲームしようとしてるオレの邪魔しないでよ!!」
「何逆ギレしてんだよ!?ゲームでマジギレするヤツも手加減しないヤツも嫌いだオレはー!!」
二人が左右田先輩と私の共有ルームを駆け回っている間に、誰かが共有ルームの外のエレベーターホールから、インターホンを鳴らした。
見慣れたその顔が画面に映し出されたのを見て、私は扉を開けて、彼を招き入れた。