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ただのパンダのお引っ越し

第8章 飼主失格



その後も興奮冷めやらなかった伊豆くんは、ベッドへと場所を移動してから何回も続けた。
いい加減疲れて寝たくなった私は、服は着たくない、素肌で伊豆くんを感じながら寝たいと駄々をこねた。

「風邪を引いたら困るだろ」
「伊豆くんはパンダになって添い寝してよ。それなら毛皮であったかいから大丈夫」
「なるほど、桃浜は賢いな」

笑いながら、伊豆くんは私の頭を撫でた。
最近すっかり彼にヨシヨシされるのが癖になっている気がする。

「伊豆くんは、いつも私に優しいね」
「それしかできないからな」
「そう?」
「それができなくなったら、オレはペット失格だよ」

伊豆くんは、フフッと笑った。

「ペットに失格とか合格とかある?」
「オレを飼う時、『私を癒すことが条件だ〜!』って、お前言ってただろ?それが出来るなら飼ってやる、って」

はあ、そういえば言ったかもしれない。

「ずっと気にしてたの?」
「気にしてたと言うほど、気にしてたわけではないな。だが桃浜には幸せでいて欲しいから、そのためにオレは何ができるかなって、それくらいはオレでも考えるぞ」

何でもなさそうな顔で、伊豆くんはそう言った。
私はちょっと、口を閉じるのを忘れて、マヌケ顔をしてしまった。伊豆くんがそんなこと考えてくれてるなんて、知らなかったから。
もしかして私が思うよりずっと、彼も悩んでいたりするのだろうか。

「伊豆くんは…頑張ってくれてるよ」

伊豆くんの頭をヨシヨシと撫でながら、私はそう言った。
頑張ってるよ伊豆くんは、偉いよ。私が毎日楽しく暮らせるのは、全部伊豆くんのおかげだよ。

伊豆くんはニイと目尻を下げると、
「桃浜も頑張ってる。偉いよ」
と私の頭を撫で返した。

そうだね、うん。
お互い頑張ってるってことで、いいか。


そうして伊豆くんはパンダの姿になり、私の傍らに横たわった。
シングルベッドでパンダと添い寝なんて、正直狭くてしょうがない。でも私はどうしてもこの毛玉に包まれて眠りたいのだ。
おやすみ、とソッと声をかけると、ウルルルと小さく鳴いた。


おやすみ、明日もまた頑張ろう。
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